「君さえいれば」「ラブソング」など、
観る者を甘く切ない気分へと誘う恋愛映画の名手ピーター・チャン。
彼の約10年ぶりの長編映画が現在公開されている。
彼は大好きな監督のひとり。
長らく待ち望んでいた新作を、先日ようやく映画館で観ることができた。

今回の「ウインターソング」はミュージカル映画。
アイドル歌手として活躍していたこともある人気俳優の金城武、
歌手でありまた女優としても熱い注目を集める中国出身のジョウ・シュン、
そして香港を代表する歌手、俳優として今やベテランとなった
ジャッキー・チュンら実力派俳優を主演に迎え、出会いと別れ、
そして運命的な再会までの10年に渡る男女の愛を描いている。


北京ー。
映画監督を目指す香港の青年、見東(ジェントン)は、
女優志願の孫納(スン・ナー)と出会う。
ふたりは夢を語り合い、貧しいなかで身を寄せあって生きるうちに
やがて恋に落ち、結婚を約束するようになる。
しかし、しあわせな日々にある日突然の別れが訪れる。
孫納が女優としての夢を叶えるために見東との愛を捨て、
彼の友人の助監督とともに姿を消したのだった。
10年後ー。
見東は今も彼女への想いを断ち切ることのできないまま俳優に転身。
夢を叶え、映画女優としての成功を手に入れた孫納と、
彼女の恋人が監督をつとめるミュージカル映画の共演のため
上海で再会を果たすが…。


映画は劇中劇を織りまぜながら、
10年前の北京と現在の上海、そして恋人たちの過去と現在を
行き来することで、すれ違い交錯する想いと揺れ動く愛の行方を
繊細に、時に大胆に描いてゆく。
消せない過去の想いに縛られ、今なお行く先を見失ったままの男と、
過去と決別しひたすら邁進することで夢を手に入れようとする女。
そこへ、ふたりのただならぬ関係を察した監督の思惑が絡み合い、
やがてそれぞれの感情は過去と現在、虚構と現実の境を曖昧に
するように収縮と増幅を繰り返す。

真実の愛はどこにあるのか…。
3人の想いはどこで結実するのか…。

観客もまたスクリーンに目を凝らし結末を探ろうとするほど、
つまり愛とはなんなのかと問われるような気持ちになる。

男性の女々しさも女性のしたたかさも、
それぞれの性質をとらえ、真っ向から描く監督の
その眼差しの揺るぎなさには驚いたけれど、
ここまで男性の弱い部分を曝け出せるのも男性監督ならではだろう。
どちらが良い悪いはないけれど、つねに今に一生懸命で、
生きるために愛し、愛するために生きているような孫納を
私は美しいと思った。
…そう思うのも、また同じ女性だからかもしれないが。


ピーター・チャンの過去の映画に比べると、
これは甘さより苦さの方が勝る作品である。
しかしながら、あえてミュージカル仕立てにすることで
エンターテイメント性の高い作品にした手腕は見事であるし、
なにより未来への希望を映すラストシーンは明るく清々しい余韻を残す。

久しぶりにお目にかかることのできたファンとしては、
ミュージカルでないのもよかったのになぁ…などと正直な気持ちでは
思ったりするのだけれど。…蛇足だろうか。
できれば、もう一度じっくりと観てみたい気がする。


作品オフィシャルサイトはこちら


【ノベライズ】
Peter Ho‐Sun Chan, Raymond To, Aubrey Lam, ピーター チャン, レイモンド トー, オウブレイ ラム, 百瀬 しのぶ
ウィンター・ソング


【サウンドトラック】
サントラ, ジャッキー・チュン, チ・ジニ, 金城武, ジョウ・シュン, チェイ・チン
「ウインター・ソング」オリジナル・サウンドトラック