先日、何気なくテレビのチャンネルをいじっていた時のことだ。
仕事仲間を連れてよく食べ歩くという、食い道楽で評判のタレントが
「だっておいしいもの食べてる時に他人の悪口言う人いないからね」と
あるバラエティ番組のなかでそのわけを明かしていた。
おいしいものは人の気持ちをまぁるくする、
人間関係の潤滑油でもあるというわけか。
なるほど、言われてみればたしかにそうだと思わず納得してしまった。
そういえばおいしいものの話もそうである。
「会社の近くにおいしいカフェできたよ」だとか、
「お友だちからめずらしい果物を戴いたんだけれどね…」だとか。
おいしい話題に花を咲かせている時は、
気がつけばいつも自分も相手も笑顔になっている。
なんとなく優しくてしあわせな気持ち。
これはきっとおいしいものの魔法に違いない。


この本、大橋歩さんの「おいしいパンノート」もそんな本だと思う。
大橋さんが企画編集を手がけられている雑誌「Arne」の別冊として出された
この本は、パンが大好きだという大橋さんが普段着のおいしいパン生活を
たくさんのおいしそうな写真とともに紹介なさっている。
もちろん料理研究家でいらっしゃるわけでもなく
(著名なイラストレーター、エッセイストでいらっしゃるので)、
また何時間もかけておいしいパンを求めに行かれるような愛好家でもない。
あくまで日常生活の目線から始まって、
ご自分のお気に入りのパンや食べ方、また気になるパン屋さんと
その厨房の様子などを好奇心たっぷりに取材していらっしゃるのだ。
おいしいものを教えたい。共感したい。
そんな気持ちがページに溢れていて、これは読んでいて楽しい。
私のように(そして大橋さんもまた書いていらっしゃるように)、
毎日のことだから、身近なところで納得できるおいしいものを
なるべく無理なく取り入れたいと思うのにはちょうどよい加減の本だ。

ところで、おいしそうなパンの写真とあたたかみのある大橋さんの文章を
拝見するうち、私も近くへ行ったらぜひ寄ってみたいお店を何軒かと、
家でもまねてみたい食べ方をいくつか見つけたのだが…
う~ん、明日のパンはどうしようかなぁ…なんて、
おいしいものを想像すると、やっぱりちょっとにんまりしてしまうのである。


おいしいパンノート

「おいしいパンノート」(イオグラフィック)

 ↑イオグラフィックHPの紹介から


イオグラフィックHP